※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の状況により適切な選択肢は異なりますので、最終的な判断はご自身の状況に合わせて行ってください。
退職が近づいてきて、会社から退職金の受け取り方法について書類が届いた。一括で受け取るか、年金形式で分割するか選ぶ必要がある。
調べれば調べるほど「税金が」「運用が」「控除が」と情報が出てきて、どう考えればいいのか分からなくなる。周りに聞いても「一括にした」「いや分割にした」と選択が分かれる。
そもそも、自分の老後資金がどれくらい必要なのかもはっきりしていない。一括で受け取って使いすぎたらどうしよう。でも分割にして、もし途中で大きなお金が必要になったらどうしよう。
決めなければならない期限は迫っているのに、何を基準に判断すればいいのか分からない。そんな状態のまま、とりあえず書類を机の隅に置いている。
多くの人が同じところで立ち止まっている

退職金の受け取り方で迷うのは、決して特別なことではありません。
企業年金連合会の調査によると、退職金の受け取り方法を選択できる制度がある企業のうち、約60%の退職者が「どちらにするか最後まで迷った」と回答しています。
迷う理由も似通っています。「税金の計算が複雑で理解できない」「将来の生活費が予測できない」「どちらが自分に合っているか判断できない」。こうした声は、退職を控えた多くの人が抱えている共通の迷いです。
会社の説明会に参加しても、税制の仕組みや計算式の説明が中心で、自分の場合はどうすればいいのかという答えは出てこない。結局、誰かに「あなたの場合はこれです」と言ってもらいたいけれど、そんな人はどこにもいない。
この状態のまま期限が来て、とりあえず「一括」を選ぶ人も少なくありません。
一括と分割、それぞれの特徴
退職金の受け取り方には、大きく分けて「一括受取」と「年金受取(分割)」があります。会社によっては、その中間として一部を一括、残りを年金で受け取る「併用」を選べる場合もあります。
一括受取の場合
一括で受け取ると、退職時にまとまった金額が手元に入ります。
1,500万円の退職金であれば、その全額が一度に口座に振り込まれる形です。税金は「退職所得控除」という仕組みで計算されるため、通常の所得税よりも負担が軽くなる場合があります。
勤続30年の場合、退職所得控除額は1,500万円。この金額までは税金がかからない仕組みです。控除額を超えた部分についても、その半分だけが課税対象になります。
まとまった資金があれば、住宅ローンの繰り上げ返済や、子どもの教育資金、自宅のリフォームなど、大きな支出にも対応できる選択肢があります。自分で運用することも可能です。
手元にあるお金を計画的に使っていく必要があります。
年金受取の場合
年金形式で受け取ると、退職後も定期的に収入が入ってくる形になります。
一般的には、5年、10年、15年、20年といった期間を選び、その期間で分割して受け取ります。1,500万円を15年で受け取る場合、年間100万円程度が振り込まれます。
年金として受け取る場合、「公的年金等控除」という別の控除が適用されます。65歳未満なら年間60万円、65歳以上なら年間110万円までは税金がかからない仕組みです。
定期的な収入があることで、生活設計が立てやすくなる場合があります。使いすぎる心配も少なくなる選択肢です。
受け取っている途中で大きな支出が必要になった場合、手元の資金だけでは足りないこともあります。また、企業年金として受け取る場合、会社が倒産したときのリスクも考える必要があります。
判断する前に確認しておきたいこと

どちらを選ぶかを考える前に、いくつか整理しておくべきことがあります。
今の状況を数字にしてみる
まず、今の資産状況を把握することが検討の第一歩です。
退職金以外に、預貯金がどれくらいあるか。住宅ローンなどの借入金がどれくらい残っているか。公的年金はいつから、いくらもらえる見込みか。
これらを紙に書き出すだけでも、自分が今どういう状態にあるのかが見えてきます。
今後の支出を想定してみる
次に、退職後にどんな支出が予想されるかです。
すぐに必要な大きな支出があるか。住宅のリフォーム、車の買い替え、医療費、介護費用。時期は決まっていなくても、可能性として考えておくべき支出です。
月々の生活費がどれくらいになりそうかも、ざっくりでいいので考えてみます。総務省の家計調査によると、65歳以上の夫婦世帯の平均支出は月額約24万円です。
税金の違いを確認する
一括と年金では、税金の計算方法が異なります。
どちらが有利かは、退職金の額、勤続年数、他の収入の有無、受取期間など、さまざまな条件で変わります。
会社の退職金担当者や、年金事務所、税務署の窓口で、自分の場合のシミュレーションをしてもらうこともできます。ただし、これらの窓口は「どちらを選ぶべきか」は教えてくれません。あくまで計算方法と金額の説明だけです。
- 会社の人事・退職金担当部署
- 企業年金基金(企業年金がある場合)
- 税務署(税金の計算方法について)
- 年金事務所(公的年金との関係について)
判断材料を集める段階で止まっていてもいい
ここまで読んでも、まだどちらにするか決められないかもしれません。
それは当然のことです。決めるための情報が全部揃っているわけではないし、未来のことは誰にも分かりません。
焦る必要はありません。今は判断材料を集めている段階です。自分の状況を整理して、何が分かっていて、何が分かっていないのかを明確にする。それだけでも十分です。
もし、自分だけで整理するのが難しいと感じているなら、誰かに話を聞いてもらうだけでも状況は変わります。話しながら考えが整理されることもあります。
決めるのは、整理がついてから

退職金の受け取り方は、一度決めたら簡単には変更できません。だからこそ、焦って決める必要はありません。
税制上の有利・不利だけで判断する必要もありません。数万円の差を気にして、自分の生活スタイルに合わない選択をするよりも、安心して暮らせる方を選ぶという考え方もあります。
一括で受け取って、自分で管理する方が安心できる人もいます。年金形式で定期的に入ってくる方が安心できる人もいます。どちらが正解というわけではなく、人によって最適な選択肢は異なります。
今の時点で判断材料が足りないなら、足りない部分を埋めることから始める。それでいいのです。
- 退職金の受け取り方で迷うのは特別なことではない
- 一括受取と年金受取にはそれぞれ特徴がある
- 判断する前に、今の状況と今後の予定を整理する
- 税金の計算方法は窓口で確認できる
- 焦って決める必要はなく、整理がついてから判断すればいい
期限までに決めなければならないのは確かです。でも、その期限までに、自分なりに納得できる材料を集めて、ご自身のペースで判断する。それで十分です。
※本記事で紹介した内容は一般的な情報です。個別の税額計算や最適な選択肢は、ご自身の状況(勤続年数、退職金額、他の収入、家族構成など)によって異なります。最終的な判断は、専門家への相談や、ご自身の状況を踏まえた上で行ってください。